また、銀行から通知が来た…「変動金利」を選んだ年収1,000万円・40代夫婦の後悔。住宅ローン「1,000万円利息増」までのカウントダウン【FPが解説】
出典:資産形成ゴールドオンライン「史上最低金利」の時代にマイホームの夢を叶えた人々。その多くが、最も返済額の低い変動金利を選びました。しかし、金利が上昇する今、その選択がライフプランそのものを脅かすリスクに変わりつつあります。本記事ではAさんの事例とともに、金利上昇時代の住宅ローンについて、FP1級の川淵ゆかり氏が解説します。
「このままじゃマズいかも…」金利上昇に不安を感じる共働き夫婦
43歳のAさんは、年収約1,000万円のWebエンジニアです。3年ほど前に住宅ローンを組み、郊外の中古マンションを購入。40歳でパート勤務の妻と2人で暮らしています。
Aさんが契約した住宅ローンの内容は、次のとおりでした。
借入金:4,000万円
当初金利:0.525%
返済期間:35年(元利均等返済・ボーナス返済なし)
毎月の返済額:10万4,277円
当初は順調だった返済ですが、ここ最近、夫婦の会話には少しずつ不安が混じるようになりました。金融機関からの通知で、すでに2度の金利上昇があったからです。「そろそろ子どもが欲しい」と考えているAさんの妻は特に、この先の返済額がどうなってしまうのか、気がかりで仕方ありませんでした。
「もし、これからも金利が上昇していったらどうなるんだろう……」
迫りくる「5年後」の見直し
2024年3月のマイナス金利政策の解除後、2度の追加利上げが行われたことで政策金利が上昇し、変動金利型の住宅ローンには影響が出ています。追加利上げについては、日本銀行の金融政策決定会合で行われ、2024年7月と2025年1月に政策金利が引き上げられています。
次回の日本銀行の金融政策決定会合は10月29、30日です。追加利上げの主な要因のひとつとしては、円安による輸入物価の上昇等がありますが、最近は円安が進んでいることもあり、変動金利型ローンの利用者は注視しておきたいところですね。
金利が上がると、毎月の返済額の内訳のうち、「利息の割合が大きくなり、元金の返済が減った」と感じている人も多いのではないでしょうか。単純に考えても、金利が0.4%から0.8%に上昇すれば、利息分は約2倍となります。
ただ、変動金利型ローンには「5年ルール」という仕組みがあります。これは、金利が上がっても5年間は毎月の返済額を据え置くというもの。急な負担増を和らげるためのルールですが、これはあくまで「先送り」に過ぎません。5年後には、上昇した金利を元に見直された返済額が待っています。
だからこそ、この5年という猶予期間に家計の見直しなどの対策をとっておかなければなりません。重要なのは、5年後までにどれだけ金利が上昇しているか、です。
金利の動向を予測するのは難しいですが、是非、皆さん自身で、「いつ、どれだけ金利が上昇するか?」を考えてみてください。金利は複数回にわたって上昇していくと考えられますので、1度に急上昇することはまずありません。5年後の返済額をシミュレーションし、いまから5年後に備えておく必要があります。
忘れがちな2つの重要ルール
Aさん夫婦が筆者のもとへ相談に来られたとき、2人とも5年ルールのことをすっかり忘れていました。
「内訳の金利部分が上がったのに、返済額も上がるんですか? 返済額は変わらず、利息の割合だけが変わるものだと思っていました」と、とても驚かれていました。金融機関から契約時には説明があったはずですが、「まさか本当に金利が上がるなんて」という気持ちから、あまり記憶に残っていなかったようです。
返済額が変わらず、利息部分が上がるということは、元金部分が減ってしまいますから、返済の先送りになってしまいます。そのため、いつかはこの先送りされた部分を返済していかないといけません。
さらに、変動金利型ローンにはもう一つ、「125%ルール」というものがあります。これは、5年ルール同様、急な返済額アップは家計に影響が大きく、返済に困る家庭も増えるため、5年後の返済額見直しの際に、それまでの返済額の1.25倍を上限とするルールです。つまり、125%ルールが適用されるほどの金利上昇があった場合、次の5年後(10年後)の返済額は、さらに大きくアップする可能性があるのです。
なお、金融機関によって、5年ルールや125%ルールを採用していない変動金利型ローンもありますので、ご注意ください。
金利2%時代をシミュレーション
将来の金利の動向を予測することは難しいので、「もし、こうなったら?」というシナリオをご自身で立てて、数字で未来を「見える化」しておくことが大切です。そこで、Aさん夫婦と一緒に「将来、いつ、どのくらい金利が上昇するか?」を話し合って、今後の金利の動きを次のように予想してみました。
借入金:4,000万円
当初金利:0.525%
返済期間:35年(元利均等返済・ボーナス返済なし)
<これまでの金利上昇経緯>
借入れから2年後:0.675%
2年半後:0.925%
<今後の金利上昇予想>
借入れから3年半後:1.425%
4年後: 1.675%
5年後: 2.000%
金利予想は人によって違いますが、このシミュレーションに基づくと、5年ルールの猶予が終了したときの返済額は、13万346円となります。しかし、この金額は125%ルールが適用された金額です。つまり、以前の金額の1.25倍で抑えられていますので、5年後、さらに返済額はアップすることに。次の5年後の返済金額は、13万4,749円にアップします。
この返済額が、ローン完済まで続くことになります。Aさんの住宅ローン完済の年齢は、75歳です。金利の動向は老後の生活まで影響することがわかります。
老後にどれだけ住宅ローンが残るのか?
総返済額でも比較してみましょう。もし、契約当初の金利0.525%がローン完済まで続いていた場合は、
総返済額:4,379万6,208円
利息合計: 379万6,208円
でした。しかし、前述の金利上昇のシミュレーションによれば、
総返済額:5,380万1,322円
利息合計:1,380万1,322円
となります。利息負担の差はなんと1,000万円以上。なお、この試算は2%以上の上昇は考えていない結果です。さらにその後も上昇が続くとなると、返済額も利息の負担も増えていくことになります。
さらに金利が上昇すると、老後のローン残高も増えてきます。Aさんが65歳時のローン残高を確認すると、もし、契約当初の金利0.525%がローン完済まで続いていた場合は、
65歳時のローン残高:1,218万7,709円
でした。しかし、前述の金利上昇のシミュレーションによれば、
65歳時のローン残高:1,464万4,508円
と、増えてきます。定年後まで住宅ローンが残る人は、老後資金設計とあわせて考えていく必要があります。住宅ローンは、生涯設計です。是非、将来の変化を数字で確認しておきましょう。
川淵 ゆかり
川淵ゆかり事務所
代表