「修繕積立金を3倍に値上げ」でマンション住民が詰み始めた…住宅ローン金利の上昇だけではない「インフレの恐怖」
出典:KODANSHA維持費の大幅値上げが相次ぐ
住宅ローンの変動金利の上昇が、いよいよ現実味を帯びてきた。ネットバンキングで返済予定表を何度も見返している、という方もいるのではないだろうか。
だが、金利上昇による月々の負担増は、実は数千円から1万円程度に収まるケースが少なくない。変動金利には、支払額の急増を抑える「独自のルール」が備わっていることが多いからだ。
一方で、修繕積立金や管理費には、金利のような一律の緩和措置があるわけではない。
昨今の物価・人件費の高騰を受け、万単位の増額、場合によっては月額が2倍、3倍に跳ね上がるケースも今や珍しくないのが実情だ。私たちさくら事務所が現場で耳にするのは、金利よりも先にこの「もう一つの値上げ」が家計を圧迫し始めているという切実な声である。
では何が、マンションの維持費をここまで押し上げているのか。管理組合は、この物価高騰時代にどう備えるべきか。その実態と、今すぐ着手すべき対策を整理していきたい。
30年後は工事費が2.5倍に
維持費高騰の最大の要因は、建築工事費の急激な上昇にある。
人件費、資材費、燃料費のすべてが値上がりし、大規模修繕工事の見積もり額は今、過去最高の水準に達している。さくら事務所が長期修繕計画を策定する際に工事費の見積もりを精査していても、ここ数年は上がり続ける一方というのが偽らざる実感だ。
工事費だけではない。仮設足場の設置、警備員の手配、資材の運搬といった周辺のコストも軒並み上がっており、見積額全体を押し上げている。人手不足が深刻化する中、これらのコストがかつての水準に戻ることは、期待しにくい状況と言えるだろう。
当然、修繕積立金への影響は避けられない。では、物価の上昇を長期修繕計画に織り込むと、数字はどう動くのか。
ここで一つ、試算を見ていただきたい。国が目標に掲げる年2%の物価上昇が続いた場合、30年後の工事費は現在の約1.8倍に膨らむ計算だ。さらに深刻な人手不足や資材高騰が続く建築現場の状況を鑑みた年3%というより現実的なラインでシミュレーションすれば、30年後には約2.5倍に達する。
30年というのは、マンションの寿命からすれば「最初の一段」にすぎない。
危ういマンションは多い
実際、配管の全面取り換えなどの大掛かりな修繕は、30年を超えたあたりから本格化する。その先、50年、80年と時が経てば、費用は今の何倍にも跳ね上がっておかしくないのだ。
もちろん、同じ率で上がり続けるとは限らない。しかし「物価は上がらない」という前提で積立額を設定してきた時代は、もはや終わりを告げようとしている。
にもかかわらず、多くのマンションでは5年前、場合によっては10年前に作成した計画を、当時の工事単価のまま据え置いているのが現状だ。
私たちのもとにも「物価上昇を計画に反映してほしい」という相談が増えているが、実際にシミュレーションを行ってみると、修繕積立金を上げずに済むケースはほとんど見当たらないというのが正直なところだ。
修繕積立金だけではない。マンションの会計のもう一つの柱である管理費にも、同じインフレの波が押し寄せている。
管理費支出の大部分を占めるのは、管理会社に支払う管理委託費だ。この委託費に関しても、多くの管理組合で「1、2年前に上げたばかりなのに、再度値上げの要請が来た」という事態が続いている。管理会社側も人件費などの上昇を吸収しきれなくなっており、一定の値上げはやむを得ない面があるのも事実だろう。
だからといって、値上げへの対応を間違えると状況はさらに苦しくなる。
コストを減らしたはずが…
ある管理組合では、値上げ要請に強く抵抗して据え置きを勝ち取ったように見えたものの、次年度の更新時に管理会社から「これでは採算が合わない」と契約の更新を断られてしまった。
慌てて新たな管理会社を探しても、人手不足の業界環境では、以前より高い委託費を提示されることも珍しくない。短期的なコスト抑制が、中長期的にはかえって負担を増やす結果を招いたわけだ。
値上げの波を止めることは難しいが、「仕方ない」と諦めるのはまだ早い。まずは管理委託契約の中身を精査し、その妥当性を検証することから始めたい。
具体的な見直しの方法は後編で詳しく触れるが、もう一つ意識しておきたいのは、「管理費の水準をギリギリに設定しない」ことである。わずかな物価上昇で赤字に転落してしまうような脆弱な会計では、次の変動に対応する余力が残らない。
ある程度のインフレを吸収できる「ゆとり」を持たせておくことが、これからの管理会計を安定させる上での大原則となる。